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評価:
安保 徹
講談社インターナショナル
(2003-07)
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◆『
免疫革命』
この本の価値は、これまでそのしくみが充分に解明されぬままに謳われていた「自己治癒力」「自然治癒力」ということを、自律神経・免疫系のしくみから明らかにしたことであろう。ストレスによる自律神経系の乱れ、それと様々な心身症との関係について語られることは多いが、それを顆粒球、リンパ球の増減という精妙なメカニズムにまで踏み込んで明らかにしたのは、画期的だ。
自律神経は、交感神経と副交感神経のバランスで成り立っている。精神的・肉体的ストレスがかかると、そのバランスが交感神経優位へと大きくふれ、それが白血球のバランスを崩して顆粒球が過剰となり、免疫力を低下させる。安保氏は、自律神経により白血球がコントロールされる姿を明らかにすることで、免疫システムの全体像をつかみ、病気の本体が見えようになったという。 こういう根本のメカニズムが分かっていなかったのかと驚くと同時に、病気と健康を統合的に把握する重要な理論が出現したのだという感銘を受ける。
自律神経と免疫システムの関係を理解すれば、身体を消耗させる間違った近代医療ではなく、もっと自然に治癒に向かう医療を選ぶ選択肢があるのだという、その主張の根拠が納得できるのだ。
東洋医学や補完代替医療は、免疫力を高めるといわれるが、それがどのようなメカニズムによるのか分からなかった。これまで補完・代替医療は、その治療効果について経験則に頼るほかなく、いわば手探りで治療をすすめていた。それが、自律神経による白血球の支配という理論によってその一部の過程が裏付けられるようになった。福田−安保理論は、東洋医学や補完代替医療の治癒のしくみを明らかにするための非常に重要な足がかりとなっていくであろう。
しかし、もちろんこれだけでは充分ではない。あくまでも従来の科学の範囲内で語りうる仕組みが明らかになったというに過ぎない。従来の科学では認められない、たとえば「気」との関係などについては、福田−安保理論は何も触れていない。それは当然とも言えるが、われわれにとっての課題は、明らかになった自律神経・免疫系の働きと「気」の研究とをどのように結びつけていくかだろう。
それにしても、ガン、アトピー、その他さまざまな慢性病など、現代医療が不得意とする病気について、現代医療の対症療法がいかに根本的に間違っていたかが、いやというほど分かる。対症療法そのものが、治癒どころか生体を痛めつけ、病気を悪化させていた。治癒のために必要な、自己治癒力、つまり自律神経や免疫系の機能を痛めつける方向に働いていたのだ。たとえば、ストレスの連続がもとで起こった発ガンなのに、抗がん剤投与でさらなる消耗を加える治療の愚かさ。
この本や、先に紹介した補完代替医療関係の本などを読むと、現代医療や、その背景となる近代科学的な世界観がいかに多くの問題をかかえているかが再認識される。 そして健康や病気という日常的に切実な問題へのかかわりを通して、われわれ一人一人の生きかたを深めるチャンスが与えられているのだとを感じる。